ご相談にあたって
交通事故の後遺障害「高次脳機能障害」
交通事故の被害者における後遺障害の一つに「高次脳機能障害」という障害があります。
脳の機能のうち、生存を支える生物的な機能ではなく、認知・記憶・思考等、身体の動静を支配し、注意を維持するなど、いわゆる人間らしい行動に影響をおよぼす機能を、高次脳機能と呼びますが、「高次脳機能障害」は、交通事故などで脳に外傷を負ったことが原因で、この高次脳機能に生じる障害です。認知、記憶、思考、各種の判断、言語の理解や発語などに障害が生じたり、人格、感情、精神、心理などに変化が起きた状態です。
目に見える外傷が無く、日常生活を送ることができている場合も少なからずあり、障害が見落とされることもありますが、交通事故等の前後で嗜好や言動の特徴が変化していたり、感情の抑制が失われがちになったり、集中力や記憶力が低下するなど、学業や就業状態に支障をきたし、人間関係に支障をきたすなど、社会生活に多大な影響を及ぼす変化が生じている場合、「高次脳機能障害」の可能性があります。
事故後の症状のみ認識している救急病院等では、障害が生じる可能性の高い傷病であることは認識できても、具体的な症状に気付くことが難しい傾向にあります。交通事故の前後で、ご家族など身近な方がご本人の変化を感知し、周囲に不安を相談することで判明することも多い障害です。特に交通事故の被害者が乳幼児や小学校低学年である場合には、交通事故の前後での被害者の変化をとらえることが、身近な人にとっても難しいことがあります。交通事故の際に意識不明の時間があった、頭蓋内の出血があった、外傷性てんかんの発作があった等の場合においては、身体的な回復が著しくとも、高次脳機能障害を併発している可能性があります。
この「高次脳機能障害」は、自賠責保険の被害者請求において請求を行いますが、適正な後遺障害等級の認定を得ることが大切になります。認定に関して、当事務所にご相談をいただくことも多くありますので、今回は、高次脳機能障害についてご紹介します。
高次脳機能障害の原因については、現在まだ医学的にも未解明という部分が多いのが実情で、脳の損傷の程度が大きければ大きいほど、高次脳機能障害が残存しやすい傾向にあるようですが、脳にどれだけ損傷があれば高次脳機能障害が起きるかについての判断基準は、曖昧な部分があります。交通事故を原因とする高次脳機能障害は、局所的な脳損傷(脳挫傷)だけではなく、びまん性脳損傷(頭蓋骨内の脳が外力によって回転させられ、ひずみが生じることによって脳全体の神経軸索に損傷が生じること)によって生じることも多くあります。
脳が損傷したことで脳の機能のうち、記憶・思考・理解・計算・言語・判断・情緒などの「認知機能」に障害があらわれる状態です。交通事故等の前後で、嗜好や言動の特徴が変化していたり、感情の抑制が失われがちになったり、集中力や記憶力が低下するなど、学業や就業状態に支障をきたし、人間関係に支障をきたすなど、社会生活に影響を及ぼす変化が生じていることが多くみられます。
具体的な症状としては、以下のようなものがあります。
- ①記憶障害
- 新しい情報が覚えられない
- 認識した事実をすぐに忘れてしまう
- 以前のことが思い出せない
- 記憶している事実同士の繋がりが想起できない、など
- ②注意・集中力障害
- 注意力や集中力が低下し、気が散りやすい
- 集中できない
- ボーっとして過ごす、など
- ③遂行機能障害
- 行動を計画することができず、提示されたスケジュールを実現することもできない
- 問題解決ができない
- 複数の作業を同時にこなすことができない、など
- ④行動障害
- 周囲の状況にあわせて行動をとることができない
- 感情をコントロールすることができない
- 我慢することができない、など
- ⑤病識欠如
- 障害をもっていることや、その原因である交通事故の発生等を認識できずに、それを言動などで表現する、など
自賠責保険の後遺障害等級認定や裁判所において、高次脳機能障害と認められるための要件は、次のとおりとされており、諸要素をもとに総合的に判断されることになります。
- 脳挫傷、外傷性くも膜下出血、急性硬膜下出血、びまん性軸索損傷など脳の器質的損失を示す傷病名がある
- CT、MRIなどの画像で脳損傷が確認できる
- 一定期間の意識障害を生じた、また、記憶障害や健忘症、性格変化などの症状が現れている
また、審査においては、下記の諸検査の結果が重要視されています。
- てんかん発作の有無、脳波・神経心理学的検査、高次脳機能障害に関する検査(WISCⅢ等)、知能検査、事故前後の生活状況調査
高次脳機能障害の等級申請がされた場合、専門医などにより構成された「高次脳機能障害の専門部会」において等級認定が行われます。
脳外傷による高次脳機能障害の等級認定にあたっての基本的な考え方は、以下のようにされています。
等級 | 障害認定基準 | 補足的な考え方 |
---|---|---|
別表第一 1級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの | 身体機能は残存しているが高度の痴呆があるために、生活維持に必要な身の回り動作に全面的介護を要するもの |
別表第一 2級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの | 著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって、1人で外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの |
別表第二 3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの | 自宅周辺を1人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える。しかし記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの |
別表第二 5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 単純くり返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの |
別表第二 7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの |
別表第二 9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの | 一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの |
前述のとおり、高次脳機能障害の原因については、現在まだ医学的にも未解明という部分が多く、症状もわかりにくい後遺障害です。
適切な後遺障害等級の認定を行うこと、及びその障害に対する適切な慰謝料請求を実施するためには、保険会社だけではなく交通事故を専門に扱っている弁護士に相談されることをお勧めします。
バイク事故で頭部等に受傷し、高次脳機能障害(1級1号)認定。
加害者側保険会社と交渉し約8300万円(自賠責保険金4000万円を含む。)を提示された後、提示内容に疑問があり当事務所に相談。
経済的な不安を解消するために、被害者請求を行い、自賠責保険金を回収後、民事訴訟を提起。
最終的に、訴訟上の和解が成立し、和解金と自賠責保険金の合計約1億7000万円での解決。
追突事故で受傷し、高次脳機能障害(5級2号)認定。
加害者側保険会社から約3300万円(自賠責保険金込)を提示された後、提示金額が妥当かわからないということで、当事務所に相談。
交渉をしたが譲歩しないために訴訟を提起。
最終的に、訴訟上の和解が成立し、和解金と自賠責保険金の合計約9700万円での解決。